PTSDの医療人類学
 「私たちの知らない太古から、人類は、悲哀と悔恨の感情、とりかえしのつかない喪失感、戦慄と恐怖の感覚などの記憶にさいなまれてきた。しかし、19世紀以後100年のうちに新しい型の苦痛な記憶が出現した。これがそれ以前の記憶と違うのは〈外傷性〉という、それまで同定されていなかった心理状態を発生源とし、これまたそれ以前には知られていなかった型の忘却である〈抑圧〉と〈解離〉とにリンクしていることである。この新しい記憶が今日もっともよく知られているのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という精神の病いと結びついている場合である。」
 PTSDは1980年、アメリカ精神医学会がその公式疾病分類(DSM-III)に採用して以来、急速に注目されるようになった。それまで少数の精神科医だけが口にしていたこの言葉は、今日では結核やマラリアなみに一般公衆の知るところになり、映画や小説の題材になり、天災人災を扱うテレビや新聞記者の主要問題になった。だが、PTSDとは時代を越えた障害、また単一の障害実体なのだろうか。歴史の所産なのではないだろうか。気鋭の医療人類学者が、鉄道脊椎、ヒステリー、シェルショックなど外傷性記憶の起源から、DSM-IIIの検証、現在の「国立PTSD治療センター」の実体調査にいたるまでを詳細に描き、PTSDの可能性と問題点を明確に示す。(みすず書房サイト
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